太宰治「きりぎりす」
林英世ひとり語り
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室生犀星「汽車で逢った女」
林英世ひとり語り
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林英世ひとり語り
ドラマ 一人芝居
「私」は親族が薦める良縁を断って、19歳で「あなた」と結婚する。「あなた」は売れない画家で、骨董屋の「田島さん」が今にものになるからと薦めたのだ。
「私」は「あなた」の絵を見て、身体が震えてならなかった。天啓のように「この人の絵は私にしかわからない。私を必要としているこの人の所へ嫁ぎたい」と感じたからだ。
結婚して二年は、本当に幸福だった。「あなた」は金にも名誉にも権威にも背を向けて、自分の好きな絵を描いて、「私」は貧乏であればあるほど、生活を工夫し、やりくりして、毎日が創造に溢れていた。お金は「田島さん」が何とかしてくれた。
しかし、個展が成功し、「あなた」は変わってしまった。身だしなみを整え、2日3日と家を空け、帰る度に詮無い言い訳をし、他の画家をくさし、お金のことを言い出すようになった。
「田島さん」の勧めで三鷹の大きな家に越してからは、お金に不自由することはなくなり、「私」の腕の見せ所もなくなり、「私」はつまらぬ奥様になってしまった。「あなた」は多くの友人を集め、他人を批評し、芸術論をぶち上げる。しかし、その言葉はいつも他者の借り物で、挙句は「私」の言葉までも横流しする。そして、お金に執着するようになり、困っている友人に貸す金も惜しみ、「私」の財布のなかを点検する。悪口を言いくさしていた取り巻きを集めて新しい派閥を作り、追従の中で胡坐をかいている。
「私」はそんな「あなた」に悪いことが起こればいい、つまずけばいいと思うようになる。が、悪いことは一つも起こらず、良いことばかりが起こる。みな「あなた」の才能を褒めたたえる。「私」にはもう、この世が、神が信じられなってくる。
「あなた」という人間の本質に失望した「私」は別れを告げる。
その別れの言葉が、一人称で語られる、太宰治の「女性一人称物」の秀作。
林英世
撮影・収録:堀川高志(kutowans studio)/収録助手:井ノ元陸/プロデューサー:笠原希
林英世ひとり語り
一人芝居
三年間の刑期を終え出所した打木田三郎は、生きる喜びを感じられなくなっていた。妻にも友にも拒絶される。自棄を起こしそうな気分で乗った汽車で、彼は一人の女と出会う。
その女に知らされた住所を訪ねて見ると、そこは小さな娼家であった。機嫌よく迎えてくれた戸越まさ子は、まさしく汽車で逢った女そのままで、打木田は「こんな所の人でもなけりゃ、訪ねてくることもできなかったのだ」と出獄人である自分の立場を意識しながら、刑期中に稼いだ金を気前よく払って、まさ子との時間を買う。ビールを飲み、手土産の志那饅頭を二人で分け合いながら、まさ子が汽車で自分と話をし、一緒に弁当を食い、手まで握らせてくれたことが思い出され、今も、出獄人である自分(彼女には打ち明けてはいないが)にまっすぐ向き合ってくれることに感動する。こうしてこの女といることで生きる喜びが湧いてくるのを感じた打木田は、まさ子に結婚を申し込む。まさ子は「この男はどうかしているのではないか」といぶかるが、普通の客とは違って、娼婦の自分をまっとうに扱ってくれる打木田に好感を持つ。
その夜、ふと目覚めた彼は、女の寝顔を見ながら考える。彼女と一緒になるには金が要る。打木田の頭にはここに来る前に立寄った古着屋が浮かび、強盗の手順を思い描く。簡単な仕事だ。が、万一捕まったらまさ子との暮らしが出来なくなる…彼女といることの幸福を失いたくない彼は考えを変える。
翌日、また来ると言い残して、彼は、かつて姉が働いていた、同郷の大学教授を訪ねる。北里という大学教授は、「金の無心に来たらしいが、自分に金は無い」と一旦は断る。だが、彼の姉には世話になったし、なにやら事情のありそうな彼の役に立つならと、納屋にある本を売って金にしろと言う。存外な額の金を手にした打木田は北里に金高を報告し、実は出獄したばかりだと真実を告げるが、北里は無関心で「うまく身を固めたまえ」というばかりだった。
元の飾り職に戻る決心をした打木田は、再びまさ子の家を訪ね、「此処を出るにはいくらかかるか」と聞く。その金高は、本を売って手に入れた金の倍もした。普通に稼いでいては間に合わないと思ったが、北里に貰った金の事、それで道具を買って飾り職に戻るつもりである事を正直に話し、部屋を見つけ、身請けの金は少しずつお内儀へ入れていくと言った。
二人は互いを信用し、汽車での出会いは二人には運命のように思われた。まさ子に言われて残りの金は店の手付を打つことにして、志那饅頭のお返しにとまさ子が買ってきた蒸し菓子を食べながら、二人は誰にも指一本触れられることの無い時を過ごすのであった。
偶然の出会いが互いの人生を変えてゆく。ほんの二日間の大人のおとぎ話。
林英世
撮影・収録:堀川高志(kutowans studio)/収録助手:井ノ元陸/プロデューサー:笠原希
太宰治「きりぎりす」
林英世ひとり語り
室生犀星「汽車で逢った女」
林英世ひとり語り
販売中
林英世ひとり語り
ドラマ 一人芝居
「私」は親族が薦める良縁を断って、19歳で「あなた」と結婚する。「あなた」は売れない画家で、骨董屋の「田島さん」が今にものになるからと薦めたのだ。
「私」は「あなた」の絵を見て、身体が震えてならなかった。天啓のように「この人の絵は私にしかわからない。私を必要としているこの人の所へ嫁ぎたい」と感じたからだ。
結婚して二年は、本当に幸福だった。「あなた」は金にも名誉にも権威にも背を向けて、自分の好きな絵を描いて、「私」は貧乏であればあるほど、生活を工夫し、やりくりして、毎日が創造に溢れていた。お金は「田島さん」が何とかしてくれた。
しかし、個展が成功し、「あなた」は変わってしまった。身だしなみを整え、2日3日と家を空け、帰る度に詮無い言い訳をし、他の画家をくさし、お金のことを言い出すようになった。
「田島さん」の勧めで三鷹の大きな家に越してからは、お金に不自由することはなくなり、「私」の腕の見せ所もなくなり、「私」はつまらぬ奥様になってしまった。「あなた」は多くの友人を集め、他人を批評し、芸術論をぶち上げる。しかし、その言葉はいつも他者の借り物で、挙句は「私」の言葉までも横流しする。そして、お金に執着するようになり、困っている友人に貸す金も惜しみ、「私」の財布のなかを点検する。悪口を言いくさしていた取り巻きを集めて新しい派閥を作り、追従の中で胡坐をかいている。
「私」はそんな「あなた」に悪いことが起こればいい、つまずけばいいと思うようになる。が、悪いことは一つも起こらず、良いことばかりが起こる。みな「あなた」の才能を褒めたたえる。「私」にはもう、この世が、神が信じられなってくる。
「あなた」という人間の本質に失望した「私」は別れを告げる。
その別れの言葉が、一人称で語られる、太宰治の「女性一人称物」の秀作。
林英世
撮影・収録:堀川高志(kutowans studio)/収録助手:井ノ元陸/プロデューサー:笠原希
販売中
林英世ひとり語り
一人芝居
三年間の刑期を終え出所した打木田三郎は、生きる喜びを感じられなくなっていた。妻にも友にも拒絶される。自棄を起こしそうな気分で乗った汽車で、彼は一人の女と出会う。
その女に知らされた住所を訪ねて見ると、そこは小さな娼家であった。機嫌よく迎えてくれた戸越まさ子は、まさしく汽車で逢った女そのままで、打木田は「こんな所の人でもなけりゃ、訪ねてくることもできなかったのだ」と出獄人である自分の立場を意識しながら、刑期中に稼いだ金を気前よく払って、まさ子との時間を買う。ビールを飲み、手土産の志那饅頭を二人で分け合いながら、まさ子が汽車で自分と話をし、一緒に弁当を食い、手まで握らせてくれたことが思い出され、今も、出獄人である自分(彼女には打ち明けてはいないが)にまっすぐ向き合ってくれることに感動する。こうしてこの女といることで生きる喜びが湧いてくるのを感じた打木田は、まさ子に結婚を申し込む。まさ子は「この男はどうかしているのではないか」といぶかるが、普通の客とは違って、娼婦の自分をまっとうに扱ってくれる打木田に好感を持つ。
その夜、ふと目覚めた彼は、女の寝顔を見ながら考える。彼女と一緒になるには金が要る。打木田の頭にはここに来る前に立寄った古着屋が浮かび、強盗の手順を思い描く。簡単な仕事だ。が、万一捕まったらまさ子との暮らしが出来なくなる…彼女といることの幸福を失いたくない彼は考えを変える。
翌日、また来ると言い残して、彼は、かつて姉が働いていた、同郷の大学教授を訪ねる。北里という大学教授は、「金の無心に来たらしいが、自分に金は無い」と一旦は断る。だが、彼の姉には世話になったし、なにやら事情のありそうな彼の役に立つならと、納屋にある本を売って金にしろと言う。存外な額の金を手にした打木田は北里に金高を報告し、実は出獄したばかりだと真実を告げるが、北里は無関心で「うまく身を固めたまえ」というばかりだった。
元の飾り職に戻る決心をした打木田は、再びまさ子の家を訪ね、「此処を出るにはいくらかかるか」と聞く。その金高は、本を売って手に入れた金の倍もした。普通に稼いでいては間に合わないと思ったが、北里に貰った金の事、それで道具を買って飾り職に戻るつもりである事を正直に話し、部屋を見つけ、身請けの金は少しずつお内儀へ入れていくと言った。
二人は互いを信用し、汽車での出会いは二人には運命のように思われた。まさ子に言われて残りの金は店の手付を打つことにして、志那饅頭のお返しにとまさ子が買ってきた蒸し菓子を食べながら、二人は誰にも指一本触れられることの無い時を過ごすのであった。
偶然の出会いが互いの人生を変えてゆく。ほんの二日間の大人のおとぎ話。
林英世
撮影・収録:堀川高志(kutowans studio)/収録助手:井ノ元陸/プロデューサー:笠原希
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